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ガンピーさんのふなあそび [絵本]

 保育園や幼稚園の先生たちに、絵本にひそんでいる深いメッセージの話をすると、きまって「子どもたちにどう読んだらいいのか」という質問がくる。ぼくの答えは一つしかない。「お母さんが、わが子に読むように」である。そう答えると、みんなほっとした顔になる。
 たくさんの子どもたちを前にして、絵本の読み聞かせをする先生たちの心配が目に浮かぶ。先生たちは、子どもがちゃんと聞いてくれるだろうかと不安になり、子どもの関心をひきつけるために、子どもに人気の本を選んだり、手ぶりや身ぶりまで入れたり、あるいは、プロのひとのまねをしたり、と涙ぐましい努力をしている。
 子どもは、そんな大人の心配や親切ごかしは、望んでいない。子どもがほしいのはほんとうに面白い絵本である。では本当に面白い絵本なるものが、はたしてあるのだろうか。然り。あるのです。すくなくとも100冊はある。そのうちの一冊をご紹介しよう。

「ガンピーさんのふなあそび」(ほるぷ出版)
ジョン・バーニンガム作 みつよしなつや訳

 ガンピーさんは中年のおじさんで小舟を一そう持っている。舟をこぎだすと子どもやたくさんの動物たちがのりこんでくる。舟にのったら、さわいだり、けんかはしない、と約束するのだがみんなは大さわぎして舟はひっくり返る。さあどうなる?

 読んでもらっている子どもは、ここでしーんとなる。こどもは失敗したとき、大人がどう出るかを体験的に知っている。「なんであんなにさわいだのだ!(もうのせてやらないぞ)」という怒声が聞こえるのだ。

 ページをめくると、みんなは川から岸に上がってぬれた身体を乾かしているし、ガンピーさんはのんきに舟を引っぱりあげているだけ。そのあとみんなでガンピーさんの家に行ってお茶をごちそうになる。読んでもらっている子どもは、ニコニコする。
 舟がひっくり返ったとき、ガンピーさんがまっさきにしたことは、子どもを岸に上げることだった。つまり、ガンピーさんという大人は、川に落ちた子どもの命を大事と考え、岸にあげ、風邪を引かぬよう身体を乾かすことを命じたのだ。ガミガミ言う前に大事なことがある。それは子どもの側に立つことだ。つねに子どもを守る側に立っていると、何が起っても穏やかな顔でいられる。だからガンピーさんも和やかな顔をしている。あとになってガンピーさんは子どもたちを叱ったかもしれない。しかしそれは、ずっとずっとあとになってからのことだろう。
 長くなるのでこれで止めるが、この絵本のなかには「ほんとうは、約束は誰としたのか」など、たくさん大事なメッセージがあり、一冊の哲学書にも比肩する。「なーんだ、子どもが失敗しても腹が立たないなんてオカシイや」と思う人は、大人として遅れている人だ。
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