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いいひと、いい詩、いい絵本 [季節のおすすめ]

 詩や絵本に魅せられて童話屋書店を開いたのはぼくが四十歳の頃です。

 まっ先に遊びにきたのは谷川俊太郎さん。気をつけの姿勢で「ぼく谷川俊太郎です。この店で詩を読ませてください」とニコニコ笑います。
 本屋で詩人が詩を読むなんて、なんと面白いことでしょう。すぐ賛成してその週末から始めました。
 谷川さんは終始笑顔で、子どもにも敬語で話しています。五十年たった今も変わりません。
 その谷川さんに「ぼくのゆめ」という詩があります。


  おおきくなったらなにになりたい?
  とおとながきく
  いいひとになりたい
  と ぼくがこたえる(後略)


 ひとの夢なら、えらいひととかおかねもちになりたいという声が出そうなところを、いいひととはナニゴト?この詩の少年は、なんと可愛げのない男の子でしょう。
 でも「いいひと」というのは大正解です、そう思いませんか。皆がいいひとなら、世界中の人がみんな笑顔になります。あのプーチンさんだって笑います。
 それを谷川さんはサラリと言ってのけ、返す刀で「かっぱかっぱらった」などとことばあそびが口から飛び出てくる、それが谷川さんのスゴイトコロです。

 ぼくにとっては茨木のり子さんも、スゴイ詩人のひとりです。
 彼女が著した『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書)の「はじめに」にこうあります。


  いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。
  いい詩はまた、生きとし生けるものへの、
  いとおしみの感情をやさしく誘いだしてもくれます。


 四十になって疲れて汚れきったぼくの心にもまだきれいな心が残っていて、それが解き放たれるのなら、そのいい詩なるものを読んでみようじゃないか。ぼくはその日から、日本のあらゆる詩を読み始めました。


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【この記事に関連する童話屋詩文庫】
 『こどもあそびうた』(谷川俊太郎)

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 『おんなのことば』(茨木のり子)

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詩文庫『まど・みちお詩集 ぞうさん』のこと [季節のおすすめ]

 ぞうさん
 ぞうさん
 おはなが ながいのね
  そうよ
  かあさんも ながいのよ
               ―『まど・みちお詩集 ぞうさん』
                          所収詩「ぞうさん」より

 あれ?これって子どもの歌でしょ? 子どもが歌う歌じゃないですか。

 編者はかつて、まどさんにそう尋ねたものでした。するとまどさんのお返事はこうでした。

 「これはね、象の子どもが、森の仲間たち、ライオンや熊やリスたちから
  『やーい、きみの鼻は長くておかしいや』とからかわれたのです。
 すると象の子どもは、そうだよ、ぼくの大好きな母さんの鼻だって長いんだもん、
 といって自分の長い鼻を空にかかげて自慢した。という歌なんです」

 つまりこの歌は、象の子どもが、自分が自分に生まれてきて嬉しい、という
「存在の詩」なのですね。

 ぼくたちや子どもたちが、人生の早くに、自分はいったい誰だろう?どこから来たのだろう。なんの用事があるのだろうと悩むとき、自分が自分に生まれてきてよかった、と知ることができたらどんなに幸せでしょう!

 この詩はやはり、ただの童謡ではありません。
 あえて歌わず声に出して読んでみれば、深い深い現代詩であることがわかります。


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詩文庫『生まれてバンザイ』のこと [季節のおすすめ]

  バンザイの姿勢で
  眠りいる吾子よ
  そうだバンザイ
  生まれてバンザイ

久々に、俵万智さんと編んだアンソロジー『生まれてバンザイ』を読み返してみました。
新しい生命が生まれてきたとき、一番嬉しいのは当の赤ちゃんではないでしょうか。
この歌では、バンザイ三唱がとても印象的です。

ふつう短歌は五七五七七の一行書きで、歌集の一ページに三首で記します。が、
編者の希望で俵さんとご一緒に一首を四行分かち書きにしたら、あら不思議、
短歌のコトバが自由に踊り出して、現代詩のように見えるではありませんか。

この歌集、いや詩集では、万智さんのコトバが赤ちゃん誕生の嬉しさでさんざめき、
秘められていた光がキラキラこぼれるように自由に踊っています。
声に出して読んでみれば、コトバにお母さんのリズムが加わって、
持前のユーモアやペーソスにも磨きがかけられているのがわかります。

これからも、たくさんのお母さん読者の手に取ってもらえることを願います。

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歩きはじめた童話屋の『リンカーン』 [季節のおすすめ]

いま、スピルバーグ監督の映画「リンカーン」が人気です。主演のダニエル・デイ=ルイスは、顔も背丈もリンカーンそっくり。表情や、やさしいまなざし、大きな手、仕草まで、まるでリンカーンが生きて演技しているみたいです。
スクリーンを見ているだけで、リンカーンその人に出会ったようで、じわーと涙がでてきました。
戦争の場面よりも、奴隷解放のための憲法修正案をめぐる議会での駆け引きには、手に汗を握ります。

さて映画の公開後、童話屋の偉人シリーズ「この人を見よ」の第1巻『エイブ・リンカーン』の、注文が連日来るようになりました。
この書籍の作者は、吉野源三郎さん。往年の名著『君たちはどう生きるか』の著者です。
そして挿絵は、あの向井潤吉さんという豪華さです。

(ちなみに「この人を見よ」シリーズで取り上げられた偉人は他に、二宮金次郎、赤十字社の父であるアンリ・デュナン、マリ・キュリー、『アンクルトムの小屋』作者のストー夫人。武将やスポーツ選手は入っていません)

『リンカーン』は、吉野さんの優れた文章が臨場感にあふれ、たいへん読み応えがあります。
少年少女向けとして編まれた本書ですが、世代を問わずご家族みなさんで味わっていただけると思います。



エイブ・リンカーン (この人を見よ)

エイブ・リンカーン (この人を見よ)

  • 作者: 吉野 源三郎
  • 出版社/メーカー: 童話屋
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 新書



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